ゴリオ爺さん(6) バルザック

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今日はバルザックの「ゴリオ爺さん」その(6)を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
ウージェーヌ・ラスチニャックは、ゴリオ爺さんのもう一人の娘(デルフィーヌ・ド・ニュシンゲン夫人)と、急接近してゆく。
 
 
どうもこうバルザックは、社会問題と恋愛を密接に絡めて考察しているようなんです。暗い人が身なりを整えるときにそれはどうしても控えめになる。その恋愛描写の細部からバルザックは「悲歌は基本的に不精なところがあり、熱狂的叙情詩は案外苦労性な本質を持っている」という芸術への考察に転じています。あ、たしかに絵画でもそういうことはあるような気がしました。なんだか途中で彩色を辞めてしまったような、哀れにかすれてしまった筆跡が、唯一の魅力を持つ絵画について、連想しました。
 
 
主人公ウージェーヌ・ラスチニャックは、富豪のニュシンゲン夫人だけでなく、かつて孤児であったタイユフェール嬢のことが気になっている。ここから先、前科者の焼き印を持つ地獄の住人の如きヴォートランが、ウージェーヌをさらなる別の恋とアブク銭の世界へと引きずり込もうとするんですが……もうめくるめく物語展開なんです。いったい何人の女と付きあいたいのかようわからんのですが、彼はそれから、高級車……ならぬ高価な馬車で豪邸へ向かうので、ありました。
 
 
夫人はやっぱり、恋多き人なのか、不倫でも良いから恋がしたいのか、自分の悲哀を、主人公にさりげなく訴えるんです。「もし貴方がいなくなってしまったら、私は一人ぼっちになります」とか「これは家庭内の喧嘩ですから、心の内に秘めておくべきものですわ。一昨日も私、このことは貴方に話さなかったでしょう? 私って、これっぽっちも幸せじゃないんですよ。金の鎖なんて重苦しいだけですよ」と言うんです。美しく、若くて、愛されていて、金持ちの夫人なのにです。
 
 
ウージェーヌ・ラスチニャックはもう、不倫かどうかなんてまったく気にしていない。こんなことを平然と言ってしまう。「私は貴女を完全に私のものにしたいんです」ウージェーヌが言った。「貴女は魅惑的です」
 
 
どうして、言いたいと思っていることを言えるんだろうかと。これは小説だからなのか、フランスだからなのか、革命のあとだからなのか……。夫人はこう言います。
 
 
  「ここでは何も貴方に不幸を感じさせない、だけれども、その見かけにかかわらず、私は絶望の中にいるんです。私の悩みごとのためによく眠れないんです。お陰で私はきっと醜くなってしまうわ」
「おー! そんなことはあり得ません」学生が言った。「しかし、私には分からないのですが、献身的な愛ですら癒せないような悩みとは一体何なんですか?」
「あー! もし私が貴方にそれを打ち明けたら、貴方は私から逃げ出してゆくでしょう」
  
 
主人公は、こう告げるんです。
 
 
  もし貴女に悩みがおありなら、それを私に打ち明けてください。私はただ貴女その人を愛していることを貴女に証明して見せたいのです。
 
 
それからウージェーヌ・ラスチニャックは、夫人から願われたとおりに賭博場で賭けをして、夫人の資産を何十倍にもしてしまうのでした。悪魔的な物語展開で、ゲーテのファウストを連想させる強運が描きだされます。
 
 
このあとの夫人の告白が、衝撃でした。夫人は豊かな資産を持っているはずなのに、それらを男に奪われ、借金をしながら生きねばならない、ひどい状況に追いやられていたんです。年金暮らしで畑があって自給自足の老夫婦は、お金をほとんど持ってないけど、困らない。いっぽうで大金を遣り繰りしている都市の若い夫婦は火の車のようになって、さらにはいくつもの不倫の罪を背負いつづけ、金に困苦している、という現代的な問題が隠されているのでした。
 
 
夫人はやっと借金を返せて、これからは素朴に生きるんだと、思うのでした。
 
 
バルザックが描きだす、夫人と主人公のキスの描写が二転三転してとってもおもしろかったです。ウージェーヌ・ラスチニャックは明るくて軽薄だけど、どこか正直者なんです。これが曰く言いがたい魅力を生じさせています。
 
 

 
 
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■主要登場人物
・ゴリオじいさん………娘たちを愛するあまり破産した。
・ウージェーヌ・ラスチニャック………うぶで野心家の学生。
・レストー夫人………ウージェーヌが一目惚れした美女で、ゴリオじいさんの実の娘。
・デルフィーヌ・ド・ニュシンゲン夫人………銀行家の妻で、ゴリオじいさんのもう一人の娘。
・ボーセアン夫人………ウージェーヌの遠い親戚のお金持ち。
・ヴォートラン………謎のお尋ね者。
・ヴィクトリーヌ・タイユフェール嬢………主人公たちとおなじマンションに住む、かつて孤児だった悲しげな目の美少女。母は亡くなり、父とずっと会えぬまま生きてきた。
 
 
 
(作中[1][2][3]などの数字表記があります。その箇所を解説した訳註はこちらをご覧ください。)







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 幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  

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