卍(まんじ) 谷崎潤一郎(5)

今日は谷崎潤一郎の「卍 まんじ」その5を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
卍は次回で完結です。光子さんは、恋人の園子さんが、綿貫と結託し始めたことにすぐ気づいた。光子さんは綿貫の子を妊娠をしていなかったらしいんですが、こんどは綿貫に玩具にされたんだと言いはじめるんです。綿貫は子が出来ない男で、それを黙っていろんな女を引っかけているとか、ちょっとこう、妊娠したというハナシとはぜんぜんちがうことを言いはじめている。
 
 
このまえ光子さんは『妊娠したのんかも』と言っていたのに、こんどは妊娠するような恋愛をしていないと、言いはじめた。光子さんはどうも言動があやしいんです。
 
 
この小説は3人の主要登場人物がいるわけで光子・園子・美男子綿貫と、この3人を描いた小説なんですけど、奇妙なことに今いない人の話でものすごく盛りあがるんです。なんとも不思議というか面白い構成ですよ。今登場していない人の話しがどんどん脹らむんです。過去の回想なのか、噂話なのか判らないまま、今回は綿貫の話で持ちきりになる。綿貫は恋人が同時にたくさんいたのに、じつは誰ともセックスをしていない。プラトニック・ラブだという。結婚したとしても、どうも性的な問題があるらしい。両性具有かもしれない、という噂まであった。
 
 
なんだか近松の心中物みたいな心情になりつつ、結婚することを目指している綿貫と光子さん……。これ、地の文章からして、関西弁の口語で、すべてが噂話と噂話で構成されている。なんともみごとな展開だなとか思いました。もはや完全にネタバレになってしまうので、読み終えてない方は読まないほうが良いかと思うんですが、同性愛もじつははじめの頃はまるでウソで、光子さんはいざこざから離れるために、園子を利用しただけだった可能性が高い。作中こう記されています。
 
 
  私との間に同性愛やいう噂立ったのんは実は誰の仕業しわざでもない、光子さん自身がそないいい触らしなさって、匿名とくめいのハガキ投書しなさったのんですねんて。
 
 
  ほんまのこと知れんように、わざと同性愛の噂立てた。まあいうてみたら、私ちゅうもん利用して世間の眼エくらましなさった。
 
 
  私の方があんまり真剣で熱烈でしたさかい、だんだん利用する心持からほんまの愛情に変って行きなさった。
 
 
おそろしいことに、ばくち打ちが逮捕されていった事件さえも、じつはまるっきりの狂言で、警察もやって来なかった、刑事なんか周りに居なかった、そんな事実はなかったのだという。事実だったはずの口伝されたものごとが、じつはただのウソだったという……この展開は凄いです。あの推理小説の四大奇書みたいな、めくるめく展開になってるんですよ。すごい小説だと思いました。愛憎の果てに生じた、だましあいに次ぐだましあいが展開するんです。
 
 
それで、真相はどうもこうだった。本文こうです。
 
 
  自分の一生は綿貫のお蔭で滅茶々々にしられた。もう行末に何の望みも光明もない、生涯うもで暮らすばっかりやいいなさって、自分は死んでもあんな男と結婚せエへん、どうぞ助ける思てあの男と手エ切れるようにしてくれへんか、何ぞええ工夫あったらせて頂戴いいなさる……
 
 
綿貫はひたすらに暗躍をしていて、ついに園子さんの夫にまで不気味な契約書を見せて、状況が混乱しつづけている。ただ、綿貫は子に恵まれないながらも光子さんと結婚をしたいだけのようにも思える。それとももっとより悪質な何かがあるのかは、まだ不明なんです。事件の気配がいよいよ色濃くなってきた。次回で完結です。
 
 

 
 
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 幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  

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卍(まんじ) 谷崎潤一郎(4)

今日は谷崎潤一郎の「卍 まんじ」その4を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
前回、綿貫の子を妊娠をし、産まない選択をした光子さんだったんですが、その堕胎の方法に誤りがあって、光子さんは病に陥った。……ということだったんですが、どうもこれが狂言であって、ウソであると。ウソで恋人園子さんの気を引いて、はなしが二転三転して、いったいなにが事実だったのかどうも判らないし、なによりも、光子さんはどういうまごころがあるのか、もはや五里霧中である。
 
 
園子さんと光子さんの壊れてきた恋愛を描写しているわけで、こういう状況というのはなんというかじつにリアルで、読者に響いてくるなと思いました。二人は一時的に仲直りして、梅田から奈良へデートをする。
 
 
園子さんとのデート遊びと、綿貫との結婚を、光子さんは両方とも得たいと考えている。両立は出来ると考えている。女二人での密会デートに相応しい場所を探しつづけて、以前事件が起きた、宿屋に籠もることになった。園子と光子と、美男子綿貫3人で会ったりもしている。△関係がもつれにもつれているところなんです。
 
 
密会を夫にごまかすために、光子さんは妊娠中で手伝いが必要だというようなことになっていたりする。ウソが雪だるま式に脹らんで行ってる最中なんです。ウソだらけで混乱をしてしまって、恋敵同士だったはずの、美男子綿貫と(お姉さんと呼ばれている主人公の)園子さんは、2人で美女光子さんの謎について語りあうんです。本文こうです。
 
 
  「いったいお姉さんは、僕とお姉さんと孰方どっちが余計愛されてる思います。…………ほんまに僕を愛してるのんなら……結婚してくれたらええやありませんか。」(※……は省略)
 
 
さらには、妊娠劇というのがじつはウソだったんではないのかとまで疑らざるを得ず、主人公の園子さんはこう考える。「そしたらやっぱり光子さんはほんまに妊娠してはるのんやろか」まるで推理小説のように、事実が行方不明になっていて、わけがわからない。真相はいったいどうなんだろう、と思いつつ読んでいます。
 
 
恋人である光子さんが妊娠したかどうか、園子にも綿貫にも判らない。恋人が2人も居るのに、彼女の真相がわからない。すごい状況ですよ。光子さんは「妊娠した」と言っていたり「妊娠していない」と言っていたりする。どちらかでウソを言っているわけなんですけど、ウソをつく動機が多すぎるので、もはや事実が行方不明になっている。
 
 
ようするに園子も綿貫も2人とも、光子さんとの将来設計が出来ていなくて、貧乏人だとか同性愛だとか、触れてほしくない所が多すぎて、いちばん見えているはずの事実さえ見えなくなっていると。事実どころか、心もつかみきれなくなっている。恋愛だけに専念していたのに、なぜか心も行方不明になっている。
 
 
園子さんとしては、やっぱり綿貫が頼り無さすぎるので、こういういざこざになったんだと考える。ついに出血さわぎでさえ、なにかしかのトリックだったのではないかという疑いまで起きる。まるきり恋愛推理小説みたいになっている。恋愛の推理小説っていままで読んだことなかったです。
 
 
女性同士が恋愛をして、結婚をして、親戚や病院を通して妊娠の計画をして、子どもが産まれて女二人で子育てをするというのはかなり自然なこう、事態だと思うんですけど、100年前の社会だとこれはもう無理だなと思いました。ただ結婚生活は無理であっても、恋愛は出来るとここの登場人物たちは考えている。本文こうです。
 
 
  同性の愛やったらどんな男と結婚したかて、続けて行かれる。夫が何人変ったかてちょっとも影響せえへん、そしたらお姉さんと光ちゃんの愛は夫婦の愛よりも永久不変やいうて……
 
 
ほかにもこう書いています。
 
 
  ……なんにも嫉妬することあれへん。ぜんたいあんな綺麗な人たった一人で愛そいうのんが間違うてる。
 
 
思わず、なるほどそういう人間関係もあるのかと、真に受けてしまいそうになりました。美男子綿貫は、園子と契約書まで交わしあって、三人で協力しあって、光子と恋愛を積み重ねてゆこうと考えている。
 
 
まんじを全文は読まないけど、内容をちょっとのぞいてみたい方は、こちらの3ページだけを読んでみてください。
 
 
このあとに出てくる契約書の内容がヤバくて、三人で恋愛を続けるために、一人の恋愛が終わってしまったら、もう一方も同時に恋愛を辞めると言うんです。さらには二人目の子どもも園子としては辞めてほしいと契約書に書かせた。そんなバカなという感じです。
 
 
ただ、恋愛における骨肉の争いが無くなるというところには意義がある。園子はこれに同意して署名した。血判まで捺した。うわー、というところで次回に続きます。
 
 

 
 
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卍(まんじ) 谷崎潤一郎(3)

今日は谷崎潤一郎の「卍 まんじ」その3を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
どうも悪いことが起きそうな予感があって、だんだん読むのがつらくなってきたこのまんじなんですけど、読みはじめてみると、小説の完成度が高いので、この世界にぐーっと引き込まれます。柿内園子さんは、光子さんが好きでしょうがなくなった。はじめは校長の計略で、恋人同士みたいに噂されていただけなんですけど、ついに本人からそうなってしまった。外圧によって新しい恋愛の形が出来て、いつのまにか内側からもこれが生じていった。
 
 
理想を掲げているうちに、ほんとにそういう理想的な生き方に近づいてしまった……みたいなことは現実にもあるかもしれないなあとか思いました。たいていは、イヤな予測しか現実にならないんですけれども。危険だ危険だと言ってるうちに、ほんとに危険なことが起きるとか。
 
 
柿内園子さんはもう光子さんに夢中で、夫や世間や、他のことが見えなくなる。学校も行かずに女同士でデートを繰り返している。ついに温厚な夫もこの異変に気づいて、妻を疑いはじめる。なんや悪いことやっとるんとちゃうんか、と言うわけです。なんだか不幸の呼び水のような記述があるんです。園子さんは夫にこう述べます。
 
 
  あんたはあんたで好きな友達持ったらええし、うちはうちで勝手にさしといて欲しいわ。

 
園子さんは性的に光子さんと睦まじいわけなんですが、それを夫にはひた隠しにしている。それでなぜ2人きりで隠れて遊んでいるのか、夫に対してこのように説明します。
 
 
  あんた自分で、そんな綺麗な人やったら会わしてくれいうたやないか。誰かって綺麗な人好きになるのん当り前やし、女同士の間やったら美術品愛するのんと同じや
 
 
哲学者のヴェーユが、美の危険性についていくつか指摘しているわけなんですけど、たとえばこう言ってます。「美は、たましいまではいりこむ許しを得ようとして、肉を誘惑する。」あるいは、とても遠い存在に対して人が美を見いだすことについて「へだたりは、美の中枢である。」とかヴェーユは言っている。「すべて美の中には、除き去ることができない矛盾、苦、欠如が見出される。」というようなことを哲学者が言ってるんですけど! 谷崎潤一郎は、そこに共通した物語を如実に描きだしている。
 
 
夫と園子さんとの対立がなんともみごとなんです。関西弁がそもそも、バトルラップに向いている文体になっているように思いました。主人公の柿内園子さんは夫と仲たがいしてしまう。そうしてそれから……奇妙な事件が起きる。光子さんの着物が、風呂つきの宿屋の中で盗まれてしまって、家に着て帰る服が無くなったので、園子さんに電話をしてこれを持ってきてもらうことになった。なんとも謎めいた事態が起きた。
 
 
ここから先は完全にネタバレになるので、まだ読み終えていない方はご注意ください。どうも光子さんは、他の美男子(綿貫栄次郎)とも隠れて恋愛をしているようである。おどろいたことに、結婚の約束さえしていたというんです。いったい光子さんはどちらを利用して踏み台にしたのか、どうもよくわからない。光子さん本人にさえ、誰に対してまごころがあって、誰を裏切っているのかよく判らなくなっている。
 
 
光子さんとしては、結婚相手と柿内さんはまったくべつの存在で、2つの恋愛は両立できるのだという……。そんな時に、宿屋で賭博の検挙事件が起きてしまって、みんな宿から蜘蛛の子を散らすように逃げていった。賭博犯たちがそこですり替わりのトリックを使って刑事から逃れようとして、光子さんたちの着物を盗んでこれを着こみ、自分たちは賭博犯じゃ無いと警察に主張しはじめた。
 
 
物語全体と細部。この2つの係り結び、とでも言えば良いのか。みごとな符合が鮮やかに織り込まれているんですよ。隅々まで。ほんとにこう、あー、これが純文学の進化なのかと目を見はりました。こういうなんでもない文章も物語全体に共鳴しているように思えて、印象に残るんですよ。
 
 
「同じ刑事でも博奕打検挙するのんと密会者検挙するのんとは係りがちごてるんやそうで」
 
 
光子さんは不倫の罪での逮捕をすんでのところで免れたわけなんですが、レズビアンの恋人にこんな頼み事をするより他なかった。
 
 
「今夜一緒に映画でも見てたようにいうて、万一警察から電話がかかっても、そこを何ぞうまいこというといてくれなされへんかいうのんです。」
 
 
まんじを全文は読まないけど、どういう物語なのかのぞいてみたい方は『その十一』の一部だけをちょっと読んでみてください。
 
 
光子さんは、美男子綿貫との関係で、妊娠をした可能性が高い。それから……話しは次回に続きます。全6回で完結です。
 
 

 
 
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卍(まんじ) 谷崎潤一郎(2)

今日は谷崎潤一郎の「卍 まんじ」その2を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
30回かけて読む予定だったんですが、ちょっと巻きで全6回で読み終えてみようと思います。第6回で最終回になります。
 
 
女生徒・柿内さんは、ちょっと奇妙な絵の才能があるようで、モデルを目の前にしてデッサンの練習をしていても、なんだか別の誰かに似てしまう。自分が好きな顔を描いてしまう。描き手の心理が、絵にあらわれてきてしまう……。
 
 
校長先生は、そんな好きなふうに描くだけでは練習にならないので、ちゃんとモデルを正確に見て、的確にこれを写生してみなさいと言うのですが、柿内さんは、そんなことしたくない。芸術行為はロボットのようにコピーペーストする作業では無い。それで若き未亡人でもある女学生柿内さんと校長先生でケンカになる。本文こうです。
 
 
「……自分勝手の絵エ画くくらいならモデル使う必要あれしません。ましてこの観音さんがモデル以外の或る実在の人間に似てるとしたら、あんたの理想いうもんもはなは不真面目ふまじめに思えますね」いわれるのんで、「わたしちょっとも不真面目とちがいます。仮にこの顔誰ぞに似てても、その人の顔観音さんの感じ出すのに適してましたら、それ写しても芸術的にやましいことない思います」いいますと、「いや、それがいかんのんです。まだあんたは一人前の芸術家ではありません。あんたがその人の顔清らかであると感じられても、万人がそう感じるかどうか、それが問題です。そういうことからとかく誤解が起るのんです」……
 
 
誤解なんて起きるわけがないと女学生柿内さんが言って先生にケンカで勝ったつもりになっていたわけなのですが、変な噂が広まってしまった。柿内さんは光子さんのことが好きすぎて、彼女の肖像画を描いてしまったと思われてしまい「つまりわたしが光子さんに対して同性愛捧ささげてる、光子さんと私とが怪しい」と学校中で思われるようになってしまった。思ったまま、好きなように絵を描いてみただけで、ずいぶんややこしいことになってしまった。
 
 
真相はどうも、これは校長の計略であって、政敵のような存在に変な噂を流すということを、つねづねやっているようなんですが……。
 
 
とうの光子さんというのは「恋愛の天才家といったような気魄きはくちた、魅力のある眼つき」の美しい人なんです。読んでいると、どうも光子さんはもう亡くなっている。本文にはこう書いてます。
 
 
  光子さん…………若うに見えてますけど、ほんまは一つとし下の二十三………生きておられたら今年二十四ですねん。 (※………部分は省略)
 
 
ところが、柿内さんはじつに生き生きと、光子さんとのデートや、お人好しな夫とののんきな話しについて、とうとうと語っている。楽しい記憶というのが消えるわけではない。
 
 
光子さんはレズビアンの噂がたったことによって、イヤなお見合い男の、相手をしなくて良くなった。未亡人柿内園子さんと、光子さんとの性的な描写がすさまじくて、クラクラします。これは……なんだかやばい小説を読みはじめてしまった、という感じがします。漱石の知的な設定に、ドストエフスキーの激情を混ぜ合わせたら、谷崎潤一郎の文学になると思いました。
 
 

 
 
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卍(まんじ) 谷崎潤一郎(1)

今日は谷崎潤一郎の「卍 まんじ」その1を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
今回から、6回くらいかけて谷崎潤一郎の代表作を読んでみようと思います。谷崎の小説を読むのが僕ははじめてなので緊張するんですけど、読んでみるとするすると読める作品で、谷崎潤一郎は漱石文学を崇敬しているんですけど、そこから現代的に、小説を進化させた作家のように思いました。森鴎外や樋口一葉のような難読性はないので、物語自体に引き込まれます。
 
 
美しい関西弁で紡がれるんですが、手紙文や会話文のような、主人公の一人語りで物語が展開するんです。ある既婚の女が先生に告白をしている。主人に内緒で不倫をしていた……。ただ深い仲というわけでもなかったんですが、その相手が忘れがたくて、悶々としている女がいる。「ええことない男やった」という記述が印象的でした。その女が、社会人も自由に入れるような、ある女学校に通いはじめた。絵画を学習中に、デッサンをしていてふと、彼女は光子さんという人を無意識に描いていた。
 
 
彼女はどうも、恋に吸い寄せられる人生のようで、急にこの光子さんにたいして気持ちが入ってしまった。恋の依存症になっているようなんですが……。
 
 

 
 
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陰翳礼讃(16) 谷崎潤一郎

今日は谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」その16を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
今回最終項にて、谷崎はイギリスのおばあさんたちが「近ごろの若ものときたら」という愚痴を言っていたことを紹介しているのですが、こういうことはじつは4000年前のエジプトのピラミッドが造られていた時代からずっと続いているそうなんです。真実かどうかは不明ですが、柳田国男が『木綿以前の事』という随筆で、イギリスの学者さんの言葉をこう翻訳して書いています。
 
 
  この頃の若い者は才智にまかせて、軽佻けいちょうの風をよろこび、古人の質実剛健なる流儀を、ないがしろにするのはなげかわしいことだ云々と、これと全然同じ事を四千年後の先輩もまだ言っているのである。
 
 
谷崎は「人間は年を取るに従い、何事に依らず今よりは昔の方がよかったと思い込むものであるらしい」と書きます。 
 
 
谷崎潤一郎が、メシの話しをするんですが、その製法や美味の秘訣が仔細に語られていて、その描写が凄くて、ほんとに美味しそうで……文章ってじつはこういうこともできるのかと思いました。
 
 
谷崎は、後半このように記します。
 
 
  われわれが既に失いつゝある陰翳の世界を、せめて文学の領域へでも呼び返してみたい。文学という殿堂ののきを深くし、壁を暗くし、見え過ぎるものを闇に押し込め、無用の室内装飾を剥ぎ取ってみたい。それも軒並みとは云わない、一軒ぐらいそう云う家があってもよかろう。
 
 
次回から谷崎の小説を読んでみようと思います。
 
 

 
 
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陰翳礼讃(15) 谷崎潤一郎

今日は谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」その15を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
陰翳礼讃は次回で完結です。えーと、この本は1933年(昭和8年)から翌年にかけて掲載された作品なんですが、その頃からなんと、日本は欧州よりも、アメリカの真似をしてしまう性質があることが、谷崎潤一郎によって指摘されているんです。それは、夜の町並みを電灯で明るくしてしまうという、ところに現れている。
 
 
ネオンの耀く日本の現代都市に比べて、パリでは21世紀にも古き町並みが中心にある。そういうアメリカ的な日本の美観はじつはもう昭和初期、20世紀初頭から日本に成立しかけていたんだなあ、と思いました。1930年ごろから、日本でネオンサインが流行しはじめた、とこの本に書いています。
 
 
アインシュタインは1922年(大正11年)に来日しているわけなんですが、その頃からもう、日本は電灯で明るくしすぎる性質を持っていた。お寺の夜間ライトアップってつい最近できた方法かと思っていたら、なんと1930年の谷崎潤一郎もこれを体験してしまっている。陰翳を礼賛する谷崎はちょっとこれに怒っているわけであります。youtube映像公開、Facebookページ運営、電話受付と最新技術を駆使しているこのお寺は、昔からハイテクだったんです。
 
 
1930年の京都のホテルにも谷崎は「電気つけすぎ。明るくしすぎ」と文句を言っているんですが、これを読んでいて、なんだか中国は山東省にあった不夜城というのをイメージしました。日本人の感覚として、あの不夜城がなにかどうも好きらしい。谷崎はそれに異を唱えるんであります。宿の照明は、明るすぎて暑苦しすぎて、悲哀さえ感じる、と言うんです。明るさに出くわすことを、「悲哀につかる」と谷崎は書くんです。悲哀につかる!
 
 
谷崎潤一郎はこう記します。
 
 
  ……だから私は、自分の家で四方の雨戸を開け放って、真っ暗な中に蚊帳を吊ってころがっているのが涼をれる最上の法だと心得ている。
 
 

 
 
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