今日は上田敏の海潮音その(20)を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
海潮音は、今回で完結です。今回は、マラルメの詩がきわだって良かったです。
作中に「想すずろぐ」と書いていて、これがどういう意味か検索サイトで調べていたら古語辞典に、こういう文章を見つけました。かっこ良いので引用してみます。
[出典]紫式部日記 消息文
「艶になりぬる人は、いとすごうすずろなるをりも、もののあはれにすすみ」
[訳] 情趣本位が身についてしまった人は、
ひどく殺風景でなんということのないときも、
しみじみとした情趣をもとめ。
(学研全訳古語辞典より)
「すずろ心」って、こんな意味なんです。現代語では「気もそぞろ」というような文字で残っている言葉です。
すずろごころ【漫ろ心】
そわそわと落ち着かない心。浮ついた心。
「いとよしなかりけるすずろ心にても、ことのほかにたがひぬるありさまなりかし」〈更級日記〉
(出典:デジタル大辞泉)
もしかすると上田敏は、紫式部日記や更級日記の文章をもばっちり暗記していて、マラルメの詩を翻訳するときに、「想すずろぐ」と書いたのかもなあ、だとすると、すさまじい暗記力だなあ……、と思いました。現代の日本語しか使えない僕の脳みそではぜったいできないやと思いました。
しかしそれにしても、紫式部とマラルメ。たった一文でも、すっごく印象深いです。
「艶になりぬる人は、いとすごうすずろなるをりも、もののあはれにすすみ」
これとマラルメの詩が、忘れられない一文となりました。
マラルメは、こういう詩を書いています。
静かなるわが妹、君見れば、想すゞろぐ。
朽葉色に晩秋の夢深き君が額に、
天人の瞳なす空色の君がまなこに、
憧るゝわが胸は、苔古りし花苑の奥、
淡白き吹上の水のごと、空へ走りぬ。
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ここからは新サイトの「ゲーテ詩集」を紹介します。縦書き表示で読めますよ。
幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。
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